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ねじれる左派・右派と「愛国」の構図。「トランプ現象」以降のアメリカ

反トランプデモとアメリカの愛国

■ 左派的なオバマが「愛国」を用いて批判したトランプ政権

 オバマ前大統領のスポークスマンは、トランプ大統領が発した入国禁止に関する大統領令が出された後に「オバマ大統領は個人が信仰や宗教によって差別されるという考え方に根本的に同意しない」という声明を発表したが、この声明には以下のような前置きがある。

「オバマ大統領は全国各地のコミュニティで起こっている社会的な関与の水準に励まされている。大統領としての最後の公式演説において、彼は市民の重要な役割と、全てのアメリカ人が自らの民主主義の擁護者となるため、いかにして責任を果たすのかという点について語った。それは、選挙の時だけのものではなく、毎日のものだ」
「集会を開き、組織を作り、選挙で選ばれた公職者に声を届けるという憲法上の権利を行使する市民は、アメリカ的な価値観が危機に瀕している時、まさに期待されるものだ」

 リベラルで左派的な大統領であったオバマが、アメリカの理念とアメリカという国家を守るために市民が積極的に関与していくことの重要性を訴える観点、すなわち愛国的な観点から、暗に現政権を批判しているのである。

 フランス革命において、愛国心に燃えた市民たちが国外への亡命を試みた国王政権を国家のために打倒した事例に見られるように、近代の西洋においては、国家をより良いものにするために政権に抵抗することも「愛国」の一つの形とされてきた。現代のアメリカにおいても、そういった市民的抵抗の伝統が根強く残っているのだろう。 

 だが、トランプ政権が主張している「雇用の増加」は、本来であれば左派が十八番とする主張であった。1960年代以降、アメリカでは有色人種や女性、LBGT、マイノリティの権利が拡大され、地位的な格差が是正されていく一方で、経済的格差の是正の問題は置き去りにされていった。
 トランプは、左派が忘れたまま置き去りにした貧困と雇用の問題を上手く利用したという側面がある。だからこそ、アメリカの左派が支持を取り戻すためには、貧困や雇用などの、経済的格差の問題に取り組んでいく必要があるだろう。とはいえ、左派がアメリカの理念に立ち返り、自分たちの国家をより良くしていくという意味での「愛国」の観点から行動を始めたことは、回復へ向けた第一歩となるのかもしれない。

 一方で、日本の左派は、未だに「国家」や「愛国」に対する嫌悪感を抱き続けているのではないだろうか。少なくとも、一般的にそう思われ続けているのは確かである。民主主義が活力を持つためには多様な主張がなされる必要があるが、ここ数十年は現実的な力関係において左派の存在感は弱まり続け、硬直化した主張が続けられたままである。
 オバマが言うように、積極的な市民の関与が民主主義にとって不可欠なものであるとするならば、日本の民主主義が活力を持つためには、左派が自分たちの国家をより良くしていくための「愛国」の理念を見出し、左派的な主張をするデモに参加する人たちが日の丸を肯定的な意味で掲げられるようになる必要があるのではないだろうか。

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大賀 祐樹

おおが ゆうき

1980年生まれ。博士(学術)。専門は思想史。

著書に『リチャード・ローティ 1931-2007 リベラル・アイロニストの思想』(藤原書店)、『希望の思想 プラグマティズム入門』 (筑摩選書) がある。


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